左大臣家の三の君。

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左大臣は娘の顔をじっ…と見る。 真っ直ぐな曇りない瞳に揺れは見られない。 思えば、淑子はこの二条邸からは参籠の際のみ、 この活発な子ならばそう思っても仕方ないと思った。 かといって淑子は左大臣家の、しかも皇族の血を引く正しい姫。 容易に外に出せるはずもない。 「暫く考えさせて下さい。」 そう言って、淑子の住む北東の対屋を後にした。 うんうん、と口元に手を当てて頭を悩ませる。 どうしたものか、あれでなかなかの頑固者だ、一度決めたら梃子でも動かない。 そこへ左大臣の正妻の敦子が現れる。 柔和な笑顔は心和ませる。 その手には文が握られている。
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