左大臣家の三の君。

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所変わって此処は淑子の曹司(個室)。 淑子は脇息に肘を付いて大量の恋文を読み耽る。 恋人を選ぼうというわけではないが、ただ、暇なのだ。 『外に出たい』と言うと父は難色を示していた。はぁ…とため息を漏らす。 せめて隣の屋敷にでも行けれたら… 「三の君様、兄君の藤中将様がお越しになられております。」 「……わかったわ。」 口をへの字にして返事をした。 肘を付いていたのをきちんと姿勢を正す。 兄・藤中将は白の直衣を身に纏っていた。 その姿に淑子付きの女房の少納言が頬を染めている。 淑子より二つ上の兄は18歳、正妻を迎えていても可笑しくない年なのだが淑子同様、積極的に誰かと夫婦になろうとはしない。 浮いた話は殆どない。 「ご機嫌麗しゅう。」 「…兄さまは何時もと変わりなさそうで安心しました。」
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