第1章

10/63
前へ
/65ページ
次へ
あぁ…ちっちゃい頃、好きなやつにいいところ見せようと頑張っちゃうことあるもんな。 「その子達が僕がピアノ弾けることを知らないって分かってたけど、僕も子供だから、ムカッとしちゃって………きらきら星の変奏曲を弾いたんだ」 「えっ!?きらきら星の変奏曲?あのこの前授業で聴いた きらきら星がだんだんレベルアップしてくやつ?すげー!」 あれが小学三年生で弾けるなんて、小林君は相当の上手さなのだろう。まぁピアノの上手い下手なんてよくわからないけど。 「ふ、何その覚え方…まぁ、そんなかんじなんだけど…。それを軽く途中まで弾いたら、周りの子がすごい褒めてくれたんだけどね、さっきまで弾いてた子泣いちゃって」 「うわぁ……」 確かに自分で挑発しといて凄いの弾かれたらキツイな… 「で、その子の泣き声で先生が来てなだめてくれたんだけど、次の日その子のお父さんとお母さんが学校まで来てさ。『うちの娘に恥をかかせたやつは誰だ!!』とか言って。怖いし恥ずかしいしクラス全員に酷い目で見られて。…学校に行けなくなっちゃった。」 「……酷いな…」 それでうちの学校に… 「転校してきてからは、誰とも関わらないように、ピアノが弾けることを気付かれないように、黙っていようって決めたんだ。」 「じゃあ、怪我したくないっていうのも、ぼーっとしてるのも…」 「怪我したらピアノが弾けなくなるでしょ。これはゴメン…僕のわがまま…。ぼーっとしてるのは、いつも頭の中で曲が流れているから。」 そうか。そうか… これで全ての謎が解けた。 彼も彼なりに自分の感情を抑えて、誰も傷つかないように努力をしていたんだ… ピアノだけが心の拠り所だったんだ…
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加