第4話

33/38
前へ
/38ページ
次へ
――――… ――…カチャ と、オートロックのドアが閉まる音を聞き、部屋を後にする。 シン――。と静まるホテルの廊下。人影はない。 落ち着いたえんじ色の絨毯は、私のヒールの足音を吸収し、その音を隠した。 ひと足先にホテルを出た部長の後を追うように、エレベーターに乗り込み、1階のボタンを押す。 誘った方の部長が朝帰りもせず、私より先に帰宅するのは、隣近所の目を気にする為。 目指すのは『良くできた旦那さん』 私と会う時は、あまり遅くない時間に残業を装い帰宅する。 残業するのは介護職をしている奥さんが夜勤の時だけ。夫婦の時間を大切にしているから、2人でいられる時は極力一緒に過ごす。 妻の意思を尊重し、近所付き合いも仕事も疎かにしない。 それが、部長が演じる『理想の旦那』像。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2127人が本棚に入れています
本棚に追加