2127人が本棚に入れています
本棚に追加
――――…
――…カチャ
と、オートロックのドアが閉まる音を聞き、部屋を後にする。
シン――。と静まるホテルの廊下。人影はない。
落ち着いたえんじ色の絨毯は、私のヒールの足音を吸収し、その音を隠した。
ひと足先にホテルを出た部長の後を追うように、エレベーターに乗り込み、1階のボタンを押す。
誘った方の部長が朝帰りもせず、私より先に帰宅するのは、隣近所の目を気にする為。
目指すのは『良くできた旦那さん』
私と会う時は、あまり遅くない時間に残業を装い帰宅する。
残業するのは介護職をしている奥さんが夜勤の時だけ。夫婦の時間を大切にしているから、2人でいられる時は極力一緒に過ごす。
妻の意思を尊重し、近所付き合いも仕事も疎かにしない。
それが、部長が演じる『理想の旦那』像。
最初のコメントを投稿しよう!