前奏

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 いつだったか。  自分の人生には何もないのだと気が付いたのは。  特別な苦労も、特別な情熱も、飢えも、愛もない。  勉強やスポーツは、出来ないこともない、といったレベル。  友人も、いないわけではないが、しかし親友と呼べるような相手は存在せず。  簡単に言えば、そう、俺は日陰者なのだ。  しかし、俺はそれを恥ずべきことだと思ってもいなければ、むしろそれでいいのだとすら思っていた。  可もなく不可もなく、平均的な人間よりも少し下に位置し、ひっそりとした存在として過ごしていく。それこそが俺なのだと。それこそが我が人生なのだと。  ━━だからそう、あれ……薔薇の刻印を持った、あの黒き鎧との出会いは、俺の空洞の人生に唐突に投げ込まれた、ひとつの爆竹だった。
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