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…この人は、どうしてこんなに笑っていられるのだろう?
笑い方を忘れてしまった私には、なんだか眩しかった。
でも、……この人の笑顔は、少しだけ悲しい。
何かを隠して、笑っている気がしてならない。
例えば……本当の心とか。
…でもそれは、私みたいななんの人生経験も経てないような子供が言うことじゃない。
何気ない一言が、誰かを傷つけるかもしれないんだから。
分かってないことを、分かったように言うなんてことはしてはダメ。
「ローナさん、…何か考え事?」
天青さんが、私を案ずるような笑顔で顔を覗き込んでいた。
私は慌てて首を横にふる。
「そっか、……じゃあ、また何処かで」
天青さんはそう言うと、私の横を通り過ぎていった。
私は無意識にその後ろ姿を、目で追う。
…何も言うことなどできはしない。
彼の笑顔が本物なのか偽物なのかなんて、私が判断することじゃない。
でももし、彼の笑顔が偽物ならば、
彼はなんのために笑っているのか。
もちろん答えなど出るわけはなく、私は軽く頭を振って思考をリセットした。
天青さんに背を向けて、私は歩き出した。
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