第3章

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 文芸部に入ってから月日はながれ、ついには、僕に作品を渡してくれる部員も眼鏡の彼だけになってしまった。  これまでの経過からしても、部長には創作意欲があまりないようで、文集の製作に励む事が役割となっているようだった。  部員達の活動を見ていると、僕も何かするべきなのか考えたりもする。  しかし、部員達に声をかけても良い返事は返ってこないのだ。よくもこの短期間でここまで嫌われたものである。自分の事でありながら、感心せざるを得ない。  同時に、嫌われるのも仕方のない事だろうとも思える。部長からスカウトされた形で入って来たかと思えば、毎日のように作品にダメ出しばかりし、何食わぬ顔でひたすらに本を読んでいるだけなのだから。  ふむ。そろそろ引き時といったところか。元々いた部員達の部活をつまらなくする為に入った訳でもないし、そもそも無理矢理入れられたのだ。嫌われてまで居座る理由などない。  一先ず、今日は帰ろう。 「…できましたよ。自信作です」  席を立とうとした矢先、その言葉に動きを牽制される。  ああ、そうか、まだ彼がいたのだった。視界に捉えた眼鏡君は、やはりそこで眼鏡を押し上げている。  無言で作品を受け取り、読む。そして、ゆっくりと彼に返す。 「部長に見せたら喜ぶよ」  それだけ言って席を立ち、静かに部室から立ち去る。彼の努力は素晴らしいし、尊敬に値する。それこそ、この部に相応しい人物だと思える。  この時間、部室棟の廊下を帰ろうとして歩く者は少なく、皆が逆の方向へと歩いていく。  こういう時こそ、本でも読んで無心になりたい。けれど、僕は二ノ宮金次郎ではないので、歩きながら読書などできない。だから、早く足を進めた。
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