第3章

4/8
前へ
/37ページ
次へ
「不動君!」  部室棟を出た時、不意に呼ばれた。その声は上から力強く降ってきて、僕の体の動きを奪う。  仰ぎ見た先には部長の姿があり、窓から半身を出して笑いかけてくるではないか。そうやって無闇やたらに、男を惹きつけているのだろうな。  同じ組の男子に見られたら殴られるのではないだろうか。そんな理不尽はごめんである。 「不動君、副部長見なかった?」  なんだそんな理由か、と無意識の内に肩を落としていた。本当に無意識だった。彼女には魔法でも使えるのだろう。  それよりもだ。副部長?初耳だ。僕は文芸部に副部長がいたなんて知らないし、それが誰かなんて存じ上げていない。 「見てないです」  悩んだ末に出た答えがこれだ。誰が副部長かを知らないのだから、その人物を見ていても副部長として見てはいないので、僕は副部長を見ていないのだ。 「わかったわ!ありがとう」 「それと部長、部活辞めます」  窓から離れようとする彼女に思い切って伝えた。この距離があれば力づくでは揉み消されはしないだろう。 「それはダメです!」  その声は、部長のものではない。部長が窓から身を乗り出して口を開くより先に、飛んで来たのだ。  誰かと思い声を辿り、部室棟の入り口を見やる。そこにいるのは、眼鏡の彼だった。 「副部長!そこにいたのね!」  僕と眼鏡君の間に飛び込んでくる部長の声。となると、彼が副部長だったのか。どうやら、見てなかったという言葉は撤回しなくてはならないようだ。  眼鏡君、もとい。副部長は部長の声を無視して僕に歩み寄ってくる。 「文章に感動したいのなら、文芸部にいた方が良いです」  そう言って眼鏡を押し上げているからには、自信と根拠があるのだろう。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加