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「不動君!」
部室棟を出た時、不意に呼ばれた。その声は上から力強く降ってきて、僕の体の動きを奪う。
仰ぎ見た先には部長の姿があり、窓から半身を出して笑いかけてくるではないか。そうやって無闇やたらに、男を惹きつけているのだろうな。
同じ組の男子に見られたら殴られるのではないだろうか。そんな理不尽はごめんである。
「不動君、副部長見なかった?」
なんだそんな理由か、と無意識の内に肩を落としていた。本当に無意識だった。彼女には魔法でも使えるのだろう。
それよりもだ。副部長?初耳だ。僕は文芸部に副部長がいたなんて知らないし、それが誰かなんて存じ上げていない。
「見てないです」
悩んだ末に出た答えがこれだ。誰が副部長かを知らないのだから、その人物を見ていても副部長として見てはいないので、僕は副部長を見ていないのだ。
「わかったわ!ありがとう」
「それと部長、部活辞めます」
窓から離れようとする彼女に思い切って伝えた。この距離があれば力づくでは揉み消されはしないだろう。
「それはダメです!」
その声は、部長のものではない。部長が窓から身を乗り出して口を開くより先に、飛んで来たのだ。
誰かと思い声を辿り、部室棟の入り口を見やる。そこにいるのは、眼鏡の彼だった。
「副部長!そこにいたのね!」
僕と眼鏡君の間に飛び込んでくる部長の声。となると、彼が副部長だったのか。どうやら、見てなかったという言葉は撤回しなくてはならないようだ。
眼鏡君、もとい。副部長は部長の声を無視して僕に歩み寄ってくる。
「文章に感動したいのなら、文芸部にいた方が良いです」
そう言って眼鏡を押し上げているからには、自信と根拠があるのだろう。
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