第3章

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 傾いた陽射しに焼かれている彼の肌は白く、白日の下に出る事よりも、机に向かって筆を動かす事を優先してきた事が伺える。  その筆を止めてまで、僕に話しかけ、僕の心に働きかけているのだ。  この僕の心が、そんな彼の思いに動かされない訳がない。  自然と顔は上を向き、終始黙ってくれていた彼女に目を向ける。 「……部長。やっぱりもう少し、文芸部に居させて下さい」 「当たり前よ。貴方には卒業以外で退部する方法なんてないわ」  食い気味に放たれた女王のような発言。言葉の刺々しさとは打って変わったように、部長の笑顔が眩しい。  きっと西日が眩しいだけなのだと、思いたい。 「さて、副部長の私が部室まで案内しますよ。着いてきて下さい」  はいはい、なんて言って流しながらも、副部長の背中が頼もしく見え、ゆっくりと着いて行く事にした。  しかし、興味が湧き、書いてみようとは思うものの、何を書けば良いのだろう。  初めてなのだから、徒然なるままに書き綴る訳にもいかないだろうし、副部長の書いた様々な世界観を見た後で、そういった物語は思いついたと言うよりも、明らかに模倣になってしまう。  そうこう考えている間にも、部室に戻ってきた。  見慣れた空間に、見慣れた顔ぶれ。そのどれもが白い目で僕を見るが、その瞳には僕が新たに抱く思いは映らない。  わだかまりがある事は、部長も副部長もなんとなく知っている事だろう。  僕の心は変わりやすいが、他の人は違うのだ。
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