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文芸。
その名を使うからには、文章で芸術を成すべきではないか。僕は勝手にそう考えている。芸術とは、時に誰かの心へ影響を与える物だと信じている。
だからこそ、僕は本を読むのだ。作家は文芸家とは呼ばれないが、文芸品に近い物を作り出す力のある事は間違いない。だから、作家と呼ばれるのだ。
……さて、目の前の少女はどうだ。
僕と同じ組の女子生徒であり、噂によれば、学園にある文芸部の長だという。そのような些細な事が噂になるくらいだ、容姿が優れていると言えるだろう。
しかしだ、文芸部長でありながら、読書中の僕に声を掛け、目の前で腕組みをし、こちらを睨んでいるではないか。
文芸部長とは名ばかりだな。と学園で無名の僕でさえ、彼女の事を見下してしまうじゃないか。
「ごめん。読書中なので、できれば後にして欲しい」
これでよし。文芸部長たる者、退いてくれるであろう。さて、本に集中だ。
意識を物語へと戻した矢先、なんと、本を取り上げられた。
「少し話を聞きなさい。貴方、文芸部に興味はない?」
呆気に取られる。
読書中の男子を相手取っているにも関わらず、文芸部長ともあろう者が、まさか、こんな手法で勧誘するだろうとは誰も予測できまい。
しかも、僕が承諾すると本気で思い、思い上がっているのだろうか。
他人の本を閉じたかと思えば、無造作にも片手で持ちながら、腕組みの体勢に戻るではないか。その豊満な肉体を見せつける様子から察するに、余程の自信があるのだろう。
本の為だ。素直に返答するしかあるまい。
「僕は文芸部に、興味がありません」
これには彼女も動揺したようで、手にした本を床に落とした。つまりそれは、僕の本だ。
しかし好都合、本を拾い読書に戻れる。
「で、でも、貴方は毎日読書しているじゃない!それでいて、文芸部に興味のない筈がないわ!」
本を拾い椅子に座り直す。降りかかる言葉を聞き流し、僕は読書へと移る。
が、またしても、本を取り上げられた。
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