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視界の隅にちらりと嫌な影が映りこむ。
「やっとみつけたわ」
振り向かずともわかる。この威勢の良い綺麗な声は、いつぞやの文芸部長のものである。
首だけ向けて、会釈をする。そして、本棚に顔を戻す。
「話しかけているのよ?こっちを向きなさい!」
やはり威圧的である。文芸部員達はさぞかし苦労している事だろう。一言目で入部を断っていて良かった。
とはいえ、この時間に僕なんかを探している辺り、わざわざ部活を放り投げて来たのだろうか。
そう考えると無碍にもできないので、彼女に向き直る。
「やっと素直になったわね。ほらこれ、生徒控えよ。一応、大事に取っておきなさい」
何やら目の前でヒラヒラと紙を揺らしている。
いや、まさか流石にそんな事はないだろう。そう高を括っていた僕がバカだったのかもしれない。
受け取った紙切れは、入部申請書の生徒控えである。
僕には書けない達筆な字で書かれた僕の名前。その下には、名前よりも堂々と大きく、文芸部とある。
「部長の私が代わりに書いてあげたのよ?喜びなさい。貴方は今日から文芸部員よ!」
果たして、やったー!!……などと気分良く喜べるだろうか。
確かに、容姿端麗な彼女と接点が持てた事は途方もなく嬉しい。
しかし、僕は入部を望んではいなかった訳だ。
「貴方も部員なんだから、今から部室行くわよ!」
そういうなり、僕の頭を脇に挟んで早足で歩きだした。
なんと、なにもしていないのにご褒美が貰えるとは。文芸部員万歳である。
僕は抵抗する素振りを見せながら、部室まで引っ張られる事にした。
心の中で叫ぼう。やったー !!と。
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