第2章

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 視界の隅にちらりと嫌な影が映りこむ。 「やっとみつけたわ」  振り向かずともわかる。この威勢の良い綺麗な声は、いつぞやの文芸部長のものである。  首だけ向けて、会釈をする。そして、本棚に顔を戻す。 「話しかけているのよ?こっちを向きなさい!」  やはり威圧的である。文芸部員達はさぞかし苦労している事だろう。一言目で入部を断っていて良かった。  とはいえ、この時間に僕なんかを探している辺り、わざわざ部活を放り投げて来たのだろうか。  そう考えると無碍にもできないので、彼女に向き直る。 「やっと素直になったわね。ほらこれ、生徒控えよ。一応、大事に取っておきなさい」  何やら目の前でヒラヒラと紙を揺らしている。  いや、まさか流石にそんな事はないだろう。そう高を括っていた僕がバカだったのかもしれない。  受け取った紙切れは、入部申請書の生徒控えである。  僕には書けない達筆な字で書かれた僕の名前。その下には、名前よりも堂々と大きく、文芸部とある。 「部長の私が代わりに書いてあげたのよ?喜びなさい。貴方は今日から文芸部員よ!」  果たして、やったー!!……などと気分良く喜べるだろうか。  確かに、容姿端麗な彼女と接点が持てた事は途方もなく嬉しい。  しかし、僕は入部を望んではいなかった訳だ。 「貴方も部員なんだから、今から部室行くわよ!」  そういうなり、僕の頭を脇に挟んで早足で歩きだした。  なんと、なにもしていないのにご褒美が貰えるとは。文芸部員万歳である。  僕は抵抗する素振りを見せながら、部室まで引っ張られる事にした。   心の中で叫ぼう。やったー !!と。
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