第3章

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 結局、文芸部に所属しても日常が変わることは無かった。放課後に本を読む場所が与えられただけで、それ以外に特に変わりはなく、文章には心が揺さぶられていない。  閉じた本の裏表紙に何も思う事はない。小さくため息をつく。 「今回もですか?」  部員の眼鏡男子に問われる。彼は専ら創作する側らしく、こうやって本を閉じる度に、自作の文を見せてくれる。  が、これまでの彼の協力も無駄に終わっている。 「これをどうぞ」  原稿を差し出しながら、眼鏡を押し上げる姿は凄く様になっていて頼もしい。  この仕草をする時は決まって、自信作を渡してくれている。 「自信作ですよ」  本人が言うのだから間違いないだろう。  しかしだ、読んでも何も感じない。これは僕が名作を読み漁った事で得た耐性なのかもしれないと、最近は思い始めている。  僕の心はこの年で枯れてしまったのだろうか。 「……文集に乗せられると思うよ」  彼に原稿を返しながら思う。僕は作品の評価をさせる為に入部させられたのではないだろうか。  だとすれば、また僕は人に嵌められたという事になる。 「またダメだったのね。まぁ仕方ないわね。次よ、次!」  部長が鼓舞し、部員達の士気が上がる。  毎日このやり取りが行われて、毎日見ているけれど、僕の為に頑張ってくれている可能性があると考えると、感無量だ。  それだけで、僕も本と向き合える。  こういう時でも僕の心は動くのだ。まだ枯れちゃいない。
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