第1章

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  ポク、ポク、ポク・・・ 木魚の軽快な音が、本堂に響く。   チーン・・・ 凛の音が、響く。 礼拝。 お経を唱えているのは、このお寺の四代目の住職で、本名、五十嵐 重徳。 その後で、お経を読んでいるのは五代目になろうとしているのか別にして、息子の一徳。その横には、奉公に来ている二人。 朝のお経が終わった。 「あーあ、終わった」 一徳は、小さな声で住職の背中越しに伸びをした。 「こらー、一徳。ここは本堂だ気を引き締めなさい」 「はーい」 やる気があるのか無いのか分からない返事をした。 一徳は、神奈川県警の刑事だった。 『刑事だった』というのも、一年前のある事件の責任を取って刑事を辞めた。 腕利き刑事だった一徳には、再就職先の話が沢山来ていたが、父である住職が倒 れ、寺を守る事に決めたのだが。 一ヶ月もすれば住職は退院し、今は前よりも元気になり、お経を唱えている。 由緒ある寺とはいえ、刑事時代の仕事に比べれば退屈である。 後の二人は、同じ系列の寺の跡取りであるが、年が若いので預かってほしいと頼まれ、住職は一徳の刺激になると思い頼みを聞いたのだが。 二人とも頭を丸めてはいるが、頼りの無い真面目なサラリーマン風の中山 修、中肉中背の気の弱い村田 晃の二人なので、元刑事の一徳の雰囲気に、ビビッていた。 朝食を食べ終わり。 「一徳、今日は月命日だったな。その前に、佐伯さんの所でお経を」 「いいよ、お経ぐらいサッと読んでくるよ」 「それじゃ、晃君ついて行って下さい」 「は、はい」 濁った返事の晃は、一徳と行くのが少し嫌だった。 一徳は頭を丸めようと思ったが、住職が元気になったので止め、正式に継ぐ気になったら丸める約束をしたが、少し自由にさせてもらっている。 その風貌は、『その筋の者』という容姿になる。 晃は、舎弟と勘違いされるのが嫌だったのである。 「晃、営業いくぞ」 「はっ、はい」 聞いていた住職が 「営業と言うな」 「はーい」 一徳は、生半可な返事をして寺の軽自動車で出かけた。 ハンドルを握りながら、晃に 「ダッシュボードから眼鏡取ってくれ」 晃はダッシュボードの中を探し、 「これですか」 眼鏡ケースを一徳に渡した。
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