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体育祭は、難なく終えた。
あたしの出る競技はなかったから、保健委員の仕事を淡々とこなしながら、ずっとポケットにしまわれた紙を気にして上の空状態が続き、気付けば終わっていた。
「惜しかったね。来年は絶対勝ちたいな~」
片付けをしながら、由梨ちゃんの言葉を右から左に流していると、ヒョイッと下から顔を覗き込まれて仰け反ってしまう。
「それよりー、小夜ちゃんどうして言ってくれなかったの?」
「え?」
なんの?って、首を傾げるあたしをジトーッと見上げる由梨ちゃん。
その視線で、だいたい理解できて目を逸らした。
「弘樹くんと梓くんが来てるなんて、あたし聞いてないよー?」
「えっと、それは………」
梓さんが、あたしを大声で応援してくれたのは嬉しかったんだけど、そのおかげで由梨ちゃんに2人がいることがバレてしまったわけで。
由梨ちゃんに何故か知られたくなかったなんて言えなくて、ギュッと唇を噛んで俯いた。
「あーあ、あたしも話したかったなあ。気付いたら帰ってていないんだもん」
由梨ちゃんは、あたしが隠していたなんて思いもしないのか、また片付け作業に戻ってボヤいている。
話したかった───それを聞いて、やっぱり会ってほしくないって思うあたしは酷い奴なんだろうか。
「でもさ、弘樹くんって彼女いるんだって。梓くんはいるのかな?」
唐突に変更された会話についていけない。
「メールでね、それとなく探ってるんだけど、弘樹くん教えてくれなくて」
え、それって…………
由梨ちゃんは梓さんに興味があるってこと?
うそ、どうして?
「……由梨ちゃん、彼氏さんは?」
彼氏いたよね?
ずっとラブラブなのーって、頬をピンクにして嬉しそうに話してくれてたじゃん。
それが、本当に幸せそうで羨ましいって。
「え?ああ……最近別れたんだ。アイツ、あたしだけとか言ってたくせに、浮気してたんだよ!! しかも、年増のおばさんと!!」
大学生とか、おばさんじゃん!なんて、元彼氏の悪口が次から次へと出てくるけど、それに受け答えする余裕なんてない。
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