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「はあ……」 体育祭が始まる前の憂鬱さが戻ってきてしまった。 由梨ちゃんと別れて電車に乗って家までの道をトボトボと歩きながら、何度目になるかわからない溜め息を漏らす。 梓さんの番号とアドレスを電車の中でスマホに登録したはいいけど、それから行動に移せないまま、もうすぐ見慣れたマンションが見えてくる。 連絡しろって言われたのに、な。 こういう弱気な自分が嫌い。 相手は何とも思っていないはずなのに、いつも見下されているように感じる自分が嫌い。 自意識過剰───と、言われても、町を歩く度に自分かブスだとかデブだとかって笑われているような気がして、出来るだけ目立たないように俯き加減で歩いて。 そんな自分に自信がなくて、梓さんとも前よりは自然に出来ていても、いざとなると行動に移せない弱いあたし。 こんなんじゃあ、由梨ちゃんに取られたって仕方ないんだろうな。 「あれ、小夜ちゃん?」 マンションのエントランスで声をかけられた。 この声には聞き覚えあって、すごく久しぶり。 「ま、誠さん。こんばんわ」 「こんばんわ。久しぶりだね、元気してた?」 お隣さんなのに会わないのは、大学の授業とアルバイトが忙しい誠さんの外出する時間がバラバラだから。 入学したての頃は、週に何度かは会えてたんだけど。 「……はい」 「うーん、なんかそうでもなさげ?」 エレベーターに2人で乗って、同じ階まで目指す。 「なんか悩み事?」 肩にかけている鞄の背負い直して、あたしの顔を覗き込んでくれた誠さんの笑顔に癒される。 誠さんこそ、お伽話の王子様のよう。 サラサラな髪と通った鼻筋、綺麗な二重瞼にスーッとした顎と、スラリとした手足。 いつもニコニコしていて、穏やかさが漂っている。 だから人見知りなあたしでも、誠さんには心を開いていて安らげるんだ。 それに───誠さんは、どこか写真のお父さんと雰囲気が似ているから。
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