欲と願い

62/124
前へ
/495ページ
次へ
景壱に抱き付いた女は裂けた口を開いて、けらけら笑う。 「ひ、久しぶりだねぇ」 「あら、あんた恭治! 渋くなったわねぇ。私と一緒になる気になったのねぇ」 「ち、違うよぉ。輪入道が、この店に来てないかい」 夜楽の背に隠れて恭治は言う。 「なーんだ。来てないわよ。でも、変な客が来てるわ。ほら、あれよ」 口裂け女が指差した方には、べろべろに酔っ払った狐の姿の裁火が居た。 「裁火さん、何やってるんですか?」 「景ちゃんら~、お久~。聞いてよお~、あらし悪くないのに稲荷大明神様ったらひろいのよお~」 「は、はあ。どうしたんですか?」 何時もと違う口調に戸惑いながら景壱は先を促す。
/495ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1504人が本棚に入れています
本棚に追加