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黒スーツ男の後を、ひたいに汗を流しながら歩いて行くと、やがて自分が見知らぬ道を歩いていることに気がつきました。
そんなに長い時間歩いてる訳じゃないし、とても狭い町なので、知らない道などないと思っていましたが、今、自分が歩いてる道は、さっぱり見覚えがないのです。
(帰れなくなったら、どうしよう…)
女の子は心の中でつぶやきました。すると、そんな女の子の気持ちを察したように、黒スーツ男がいったのです。
「大丈夫ですよ。あなたを壇先生に会わせたあと、あなたの住む町へ帰してあげますからね」
女の子は目をキョロキョロさせながら、黒スーツ男の後をついて行くと、どこからか、キーコ、キーコ、と油のさしていない自転車のペダルをこぐ音が聞こえてきました。
女の子の前を歩いていた黒スーツ男がヒラリと体を右側にかわすと突然、郵便配達員が乗っている赤い自転車が現れたので、女の子は咄嗟に体を右側にヒラリとよけました。ふと、すれ違う郵便配達員の顔を見ると、その顔は冷たいような、真っ白なガイコツだったので、女の子はギョッとして思わず息を飲みました。
「あ、あの、どこへ行くんですか? 私、ハッキリいって怖いんですけど。ちゃんとお家へ帰れるんでしょうか?」
女の子が震える声でいうと、黒スーツ男は振り向きもせずに答えました。
「どこって、壇先生の事務所じゃありませんか。ちゃんとお家に帰れるので大丈夫ですよ~!」
見知らぬ道を歩いている女の子は、引き返すこともできず、黒スーツ男の後をついて行くしかありませんでした。
「さあ、さあ、あの電車に乗って行きますよ!」
せかせかと歩く黒スーツ男の指さす先には、小さな駅に停まっている、二両編成の路面電車がありました。
女の子が古ぼけた路面電車をながめていると、黒スーツ男はポン、ポンと跳ねるように駅の階段をかけあがり、開いているドアから路面電車の中へ入って行ったので、女の子は「待ってくださーい!」と叫びながら、薄暗い列車の中へ入って行きました。
路面電車の車両の天井には、暗い電球がぼんやりと点っています。床は板張りで、油でピカピカに磨かれているようです。座席には数人の乗客が座っていて、皆、色を無くしたようにグレーで、お喋りすることなく、無言でした。
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