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「もとよりそのつもりだ。だが、東園寺くんに『呑龍』があるように、逆島くんには『止水』という技があると聞いた。逆島家2000年の歴史は伊達(だて)ではないだろう。万が一わたしが破れた場合の忠告だ。不愉快なら詫(わ)びを入れる。だが、きみたちの本当の戦場は、養成高校の校庭にはない。そのことだけは忘れないでくれ。失敬(しっけい)した」
年上の同級生はそういうと、トレイをもって立ち去っていく。クニが分厚い背中にいった。
「敵なのか味方なのか、よくわかんないな。だけど、あの人は本物だ。タツオ、決勝戦にたどり着くのは、そう楽じゃないかもしれないな」
タツオは黙ってうなずいた。食欲がどこかにいってしまう。だが、明日からの特訓のためにも食べなければならなかった。ひゅーん、ひゅーんと風切音のような不気味な音が、テルの手のなかから鳴っていた。
「はっきりしてるのは、潰すか潰されるかだってことだな。まあ、せいぜいがんばろう」
3組1班のテーブルでは、もう誰も返事をする者はいなかった。進駐官としての未来を賭けた闘いは明後日に迫っている。タツオは闘志が熱泉のように湧(わ)きだしてくるのを止められなかった。
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