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 クニがカーテンを引いた。養成高校のグラウンドには斜めに秋の夕日がさしている。陸上部が放課後の練習をしていた。黙々と集団でトラックを周回している。気がつけば、丸1日を失ってしまった。呆然(ぼうぜん)とする。「止水(しすい)」の発動トレーニングをしていただけなのに。 「タツオ、なにか見つけたね」  いきなりジョージが質問してくる。タツオは正直にいった。 「まだわからない。なにかをつかんだ感覚はあったけれど、あれがいったいなんなのか。どんなふうに試合でつかえるのか、予想もできない」  シャワー室で額の中央に水の針を受けていたとき、身体が通常の「止水」よりも速く動いていた気がする。高速で動く身体がシャワーの水を弾(はじ)いて、水煙をあげていたとジョージはいった。これまでの限界を超えたのかもしれない。それにあの虹色の球体。あの球のなかにあるものなら、どんなものもすべて知覚可能だったような感覚が残っている。正面からくる敵の拳(こぶし)や蹴りどころか、背後の死角から飛来する銃弾やミサイルさえ完璧に捕らえられそうな気がするほどだ。あの虹の球体はいったいなんだったのだろう。地球全体まで包めると思えたほどの知覚拡張感があった。超高性能の局地戦用ミリ波レーダーだって、あれほどの過敏さはないだろう。
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