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「ここに座るなら、席を空けますよ、佐竹さん」  戦場での実戦で3桁の敵兵を殺したと噂される宗八はそっけなくうなずいただけだった。手や顔には細かな傷があった。 「気づかい感謝する。忠告だけしにきたのだ。わたしは『呑龍』を何度か見た。穴のない究極の秘伝で、破るのは至難の業(わざ)だ。ここはただの養成校に過ぎない。こんな場所で、しかもたかが文化祭くらいで、進駐官としての輝かしい未来を閉ざしてはならない。東園寺くんと闘う者は、試合を放棄したほうがいい。彼には勝ち目がない。それに……」  タツオは宗八の目を覗(のぞ)きこんだ。表面的には一切の感情を殺しているが、その底に苦しみが沈んでいるようだ。 「それに、なんですか」  元上等兵は苦々(にがにが)しげに口を開いた。
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