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そんな顔するなって、私はどんな表情で彼と話していたのだろう。昨日を思い出して熱を持った頬に手の甲を当てて部屋に戻り、玄関の姿見に自分を映した。
――どうして、こんな表情をしているのだろう。鏡の中の私は、とても切なく困ったような顔をしていた。申し訳なさそうというより、切なそうに見えるのは……なぜ?
手を洗い、ハーフアップにしていた髪をすべて纏め上げ、買ってきたバニラを1つだけ開ける。
夕焼けに染まってきた空を眺めにベランダへ出ると、地上では感じなかった涼しい風が吹いていて、火照った頬にとても心地よい。
彼がもし起きていたら、ベッドで一緒に眠っていたのだろうか。冗談だと分かっていても、彼の言うことはどこまでが本気なのかわからないところがある。
私にはそういうことはしないと断言されて寂しさを覚えたのは、彼に女として見てほしかったのかと、今になって気付かされた。
隣人でいたいけれど、女として扱ってほしいなんて、複雑すぎて自分でも嫌になる。
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