rule 2

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 ちょうど出してあったミュールを履いて、高丘さんの部屋の前に立った。  ブラックにゴールドの縁飾りのようなものが付いたドア。このマンションのどの部屋も同じなのに、その奥で生活している住人を知ってしまったからか、違うものに見えてきた。  インターホンを押そうと伸ばした指が止まる。  ここに来る女性は、彼を呼び出す時はどんな気持ちなのだろうか。彼女ではないと言われているのに、一夜を共にするその心模様が分からない。  1度押すと聞き慣れた音が聞こえてきたが、彼は応答する様子はなく、数回鳴ったのちに切れた。  もう1度押しても、彼は出てくることはない。  仕方なく自分の部屋に戻る。  一体どういうこと?私だって居留守を使いたかったのにと、苛立ちの矛先がないまま、むしゃくしゃした気分を晴らすため、ベランダに出た。  比較的奥行きがあるこのベランダは、大雨や柵の方へ出ない限りは濡れることはない。  ライターで煙草の先を焦がし、湿気と共に吸い込むと、メンソールの爽快さが際立って心地よく感じた。
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