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「……いいよ、気にしなくて。そういう時もあるじゃん。来週にしようね」
仕切りを隔てた隣から、高丘さんの声が聞こえてきた。どうやら電話をしているらしい。盗み聞きをするつもりはないけれど、まだ火を点けたばかりの煙草を揉み消したくなくて、私もベランダに居座ることにした。
「今日は、これから約束が入ったんだ」
約束って、私との鍋のことだろうか。誰と話しているのか分からないけれど、そっちを優先してくれて構わないと伝えなくては。それに、私も豆乳鍋を選びはしたものの、約束を了承したつもりはないのだ。
「女の人だよ。……別にそういうのじゃないよ。部屋に連れ込んだりしないし、食事するだけ」
何を格好つけているんだ、この人は。食事って、私の部屋で鍋じゃないか。部屋に上げたりしないって、私の部屋に来るのは良しとされているのはなぜなのだろう。
「うん、じゃあまたね。楽しみにしてる」
その最後のひと言で、相手はどう思うのだろう。女性だったら期待してしまうのではないだろうか。
高丘さんは、恐らく罪作りな遊び人なのだと確信した。
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