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「今度の週末、時間ある?ちょっと買い物とかつき合ってほしくて」
「いいよ。たまにはご飯食べようよ」
「そうね、じゃあまた時間は後日」
姉は彼氏は作った方がいいと言うけれど、結婚を急かしてきたりしない。それは、彼女も仕事が好きだったからだ。働かなくても生活ができるような相手を選んだばかりに、家庭に入ることを望まれたらしい。
ハムとレタス、スクランブルエッグを挟んだクロワッサンに、ミルクを入れたコーヒーで食事を済ませた。
『山下さん、昨日はありがとうございました。今日はお仕事ですか?寒くなってきたので、風邪をひかないでくださいね』
お礼のメールを送信してから、暖かそうな日差しに照らされているベランダで煙草に火を点け、柵に寄り掛かり空を見上げた。
隣室のベランダで回転する物干しが、光を乱反射する。
高丘さんに出会ったあの日が一瞬にして蘇ったけれど、そこには彼の姿はなく、洗濯物だけが風に揺れていた。
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