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少しずつ前に進みながらも、列になっていない人波は簡単に混ざって三田さんが遠くに見えるようになった。
「ごめんね、気を悪くしなかった?」
「そんなことないです。むしろちょっと嬉しかったというか……」
「えっ?!」
「あっ!何でもないです」
思わず、心の声を言葉にしてしまった。半ば、告白してしまったような状況に顔が熱くなる。
――恥ずかしい。きっと、冗談だったはずなのに……私がこんな反応をしたら、彼だって困るに違いない。
「っ!」
俯いてマフラーに埋めていた顔を覗き込まれて、心臓が跳ね上がった。まっすぐな視線に捕まえられて逃げ場を失った私は、彼の瞳を見つめるしか成す術がない。
「今日から、つき合おうか」
参拝客が鳴らす拍手の音が聞こえ、お賽銭を投げ入れる音や誘導する警備員の拡声器の声が響く賑やかさで、聞き間違えたのではないかと耳を疑った。
「俺についてきてください」
驚きで答えられずにいる私に告げると、山下さんはそっと額にキスをしてきた。
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