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「それはそうと、先週、ヘアモデルの依頼で山下さんのところに行ってきたの。凛子はあれから行ってないの?」
「あ……うん。結局行き慣れたところが良くて」
あの時、姉に言われたノリで、純弥さんのサロンに変えなくてよかった。こんな状況で予約なんか入れる勇気はない。会ったとしても周りの目を気にして、客と美容師のスタンスは守らなくてはならないし、聞きたいことは1つも話せないだろう。
「それが、もうびっくりしちゃった。少し会わないうちに、山下さん結婚してたの」
――絶句。
茫然として、理解ができないまま姉が言ったことが脳内を周回する。
「……へぇ、そうなんだ。誰と?」
だけど、姉への態度は自分でも驚くほど冷静を保ち、自ら話題を掘り下げようとしてしまう。
「私と同じヘアモデルさん。静香さんっていうんだけど、MORITANIの娘さんで、とても華やかな人よ」
情事の最中、想像の中で彼を殺したあの夜。
彼に電話を掛けてきていた女性の名前が瞬時に浮かび、散らばっていた点たちが直線上に並んだ。
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