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「それで、俺が言われたのは……」
私が思い出すのを待っているのか、彼はそこで区切ってビールを飲み、様子を窺っている。
でも、どんなに記憶を辿っても、彼を見つめて思い出そうとしても、一片も出てきてくれないその日の出来事は、まるで初めて聞く話に感じられる。
「ごめんなさい。私、年下には興味がないのよ、って言ったんだ」
「酷いことを言ってごめんね」
「一刀両断って感じで、こっちは清々しささえ覚えたよ」
楽しそうに笑って話してくれるけど、振った上に覚えてないなんて最低だ。
「まさか銭湯で見られて、引越した隣の部屋に住んでるとは思わなかったけど、すぐに凛子さんだって分かったよ。また会えて、すごく嬉しかった」
失礼な男だと、相手にしないでいた私のほうが何倍も失礼だったのかもしれない。もし覚えていたら、私たちは何か変わっていたのだろうか。
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