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サングラスをして、ご機嫌で運転をする彼から鼻歌が聞こえてくる。
先日の一件さえなければ、平和な休日だったはずだ。あの日、熱を交わした相手は一体誰なのかと聞くのも咎める私は、1人悶々としてばかりで、隣に座る彼が憎らしくも思う。
「到着!ひとまずあれに乗って、綺麗な景色を見ようよ」
臨海公園の大観覧車を指差した彼が、私の手を引いて歩く。きっと傍目から見たら恋人同士なのに、何ともいえないこの距離が一層私を切なく縛り付けるのだ。
「その荷物なぁに?」
「これ?あとのお楽しみ。凛子さんは高いところ平気?」
「うん、観覧車くらいなら楽しめるよ」
「よかった。俺、凛子さんとどうしてもこれに乗りたかったんだよ」
高校生のような無邪気な彼に、思わず頬が綻んだ。
他に好きな人がいると分かっているのに、どうしても止まってくれないこの気持ちは、いつになったら冷めてくれるのだろう。
彼と知り合った1年前と同じような嫌悪を抱けたなら、楽になれるのに。
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