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秋は進むのが早い。あっという間に冬支度を始めた街並みは、もう少しで12月になろうとしている。
HILLSの買収が報道された日に送ったメールに、返信が来たのは数日経ってからだった。
『連絡しなくてごめん。もう少しだけ待っててください』
たったそれだけでも嬉しかった。待ってていいと知って心が軽くなった。でも、別れる為の助走をはじめた気持ちは変わらなかった。
『待ってるよ』
この5文字に、私の想いが詰まっている。
駅のホームやマンション前の歩道に彼の姿を探してみたり、似た後ろ姿を見かけては、つい立ち止まって動揺した。
消えるからいいんだ。思い出にできる――読んだ本にあった一節を思い出し、手放そうとすればするほど好きになってしまう気持ちに涙が溢れた日もある。
消えたのは彼だけで、私の想いは消せないのに、それでもこの恋は思い出になってくれるのだろうか。
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