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思い出にしようと必死で手放していた彼との1つ1つを手繰り寄せて、胸に抱きしめる。
失いたくない想いは、どうやっても消せなかった。
引越しをするその日までと言いながら、毎日街の中で彼の姿を探し、夢の中で会えたら嬉しくなって、明かりが灯ることのない隣室に涙をこぼし、繋がれることのない手を伸ばしていたのだ。
「凛子さんが、俺と恋をしたのが正しかったのかは、俺には分からない。でも、隣で泣いたり笑ったりしてくれる人がいないと、物足りなくてすごく寂しいんだ」
彼の言葉に頷くけれど、心を満たした想いが身体中に溢れかえっていく。とうとうこぼれた涙がテーブルに音もなく落ちて、わずかに弾かれた。
「それを埋めてくれるのは、凛子さんしかいない」
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