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泣いている私を見つめている彼もこの瞬間も、現実ではないと疑いたくなるほど、彼の言葉で私の時が止まったように感じる。
「……勝手なこと言わないで」
こんな時まで可愛げのない答えしか返せない私は、涙で震える声色に素直さを乗せた。
「言わないと、振ってもくれないままで凛子さんが逃げちゃうから」
返された無邪気な笑顔に鼓動が大きく鳴り響き、指先まで締めつけられて温もりが奪われ、彼の優しさに甘えて、今すぐ抱きつきたい衝動に駆られる。
突然、姿勢を正した彼が長い指先を私に向け、渡してくれた資料を捲った。
「一緒に暮らさない?もう離したくないんだ」
最後のページには、真新しい物件の間取り図が綴じられていた。
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