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腕時計を見て、彼が荷物を纏めはじめた。
「次の予定があるから、そろそろお暇します」
突然の時間の区切りに、涙が取り残される。
このまま帰していいのだろうか。また、大切なことを告げる機会を逸して、素直になれない殻に閉じこもってしまう気がする。
眼鏡を外し、席を立った彼が来客室のドアへとつま先を向けた。
「凛子さん、今夜中に返事をください」
待つのが苦手な彼らしさに、伝えたい気持ちが喉の奥で焦れる。
「高丘さん、待って」
ドアを開ける前に彼を真っ直ぐ見上げて、その瞳に想いを預けた。
なんでもない、ありふれた毎日でいい。
ただ、明日も明後日もずっと愛されていたい。ずっと、好きでいられたらいい。
「私も、離れたくない……」
彼の肩に手を乗せ、つま先立ちになって私から唇を重ね、いつの間にか作っていたルールを壊した。
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