rule A

　「椿先輩、次の会議ってプロジェクター使いますか？」

　「うん、ありがとう。そのまま置いておいて」

　来月には、新入社員が先輩になる。私が入社した時、こんな毎日を送っていることなど予想もしなかっただろうな。

　「本日お送りしましたので、追ってご返送くださいますようお願いいたします――」

　仲介から部屋の更新書類を送ったと、仕事の合間に留守電が入っていた。

　連絡が来る前から、転居すると決めていた。そして、ここを出るまでに彼への想いを断ち切ろうとも思っている。１つ問題なのは、彼が生活していた場所が近過ぎて、どんなに時間が経っても色褪せてくれないことだ。

　最後の１日まで好きでいよう。
　最後の１日で、忘れよう。

　ドアに鍵を掛けたら、もう戻らない。