rule A

5/18
前へ
/18ページ
次へ
 彼が好きだった音楽は、最近また聴けるようになった。心の方向を決めたからだと思う。  彼が買ってくれたルブタンのローファーは、天気のいい休日に大切に履いている。  ベランダでトマトジュースを飲みながら、仕事帰りの身体に夜風を纏わせ、そっとまぶたを閉じた。  形のある物もない物も、高丘さんへの気持ちを総決算するように持ち出し、毎日浸っては想いを募らせ、ここでの過去に懐かしさを感じ、少しずつ解放しては手放す。  「私も高丘さんみたいな人、すごくタイプよ」  出会った時も、再会した日も言ってくれた言葉を真似て呟いてみた。たったこれだけなのに、心が素直になれた気がして軽くなり、もっと早く言えばよかったと寂しく微笑んだ。  今夜も春が目覚めそうな星空に、彼への想いをまた1つ放り投げた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

133人が本棚に入れています
本棚に追加