rule A

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 「HILLS CARE様がお見えになっています」  続けて聞こえてきた受付の声に、思わず目を見開いた。  「……畏まりました。フロアの来客室へお通ししてください」  まだ彼が来たとは限らない。彼の会社だというだけで動揺を隠しきれず、愛名ちゃんに小さく笑われてしまった。  「新規の案件っぽいけど、愛名ちゃんが行く?」  「私、これから来期の新入社員教育の会議に出るんです」  「そう……だったわね。頑張って」  天井を見上げて、高丘さんではないことを祈る。  いま再会したら、永久の眠りにつこうとしている恋が春風に舞い上げられてしまう。2度目の恋が始まってしまったらと思うと、戸惑いに手が震えてきた。  会いたい。会いたくない。  細くて微妙な境界線を綱渡りするように、ゆらゆらと心が動き出した。
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