rule A

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 在室を示すランプが点いた来客室のドアの前で、大きく深呼吸をした。  彼が来るはずはない。営業職でもないのに、アポイントもなくやってくるなんてこともしないだろう。  だから、きっと何も起こらない――  「失礼いたします」  ノックをしてからゆっくりとドアを開けると、先に出されていたコーヒーの香りを感じた。  「……担当の椿と申します」  目の前の景色が切り取られ、まばたきの間で記憶が何度もシャッターを切っていく。  「年度末のお忙しい時に、突然お伺いしまして申し訳ありません。HILLS CAREの高丘と申します」  桜色のネクタイを締め、細身のスリーピースを着こなすその姿は息を飲むほど綺麗な笑顔を浮かべていた。
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