133人が本棚に入れています
本棚に追加
在室を示すランプが点いた来客室のドアの前で、大きく深呼吸をした。
彼が来るはずはない。営業職でもないのに、アポイントもなくやってくるなんてこともしないだろう。
だから、きっと何も起こらない――
「失礼いたします」
ノックをしてからゆっくりとドアを開けると、先に出されていたコーヒーの香りを感じた。
「……担当の椿と申します」
目の前の景色が切り取られ、まばたきの間で記憶が何度もシャッターを切っていく。
「年度末のお忙しい時に、突然お伺いしまして申し訳ありません。HILLS CAREの高丘と申します」
桜色のネクタイを締め、細身のスリーピースを着こなすその姿は息を飲むほど綺麗な笑顔を浮かべていた。
最初のコメントを投稿しよう!