rule A

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 「相田(あいだ)と申します」  彼と一緒に立ち上がった男性が、高丘さんに次いで名刺を差し出した。  「弊社は来期から新体制となり、相田はMORITANIにいた人間です。以前、御社と共同開発の話があったと聞き、改めてお話させていただきたくご挨拶に伺いました」  「ご丁寧にありがとうございます」  プライベートの高丘さんばかりを見てきたせいで、真面目に話す彼に面喰う。普段からこの調子だったら、ベランダで出くわした日も誠実な男性に映っていただろう。  「大変失礼を承知で申し上げますが、私は別件でお伺いしましたのでこのあたりで失礼いたします」  2人きりじゃないのかと残念に思ったと同時に、緊張でやりきれないこの状況を救ってくれていた相田さんの存在は、ものの数分も経たないうちになくなってしまった。
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