22596人が本棚に入れています
本棚に追加
*****
「おかえり、ひよちゃん」
宇佐美壮太(うさみ・そうた)は部屋着姿で奥の台所から顔を出し、
いつもと同じ柔らかな笑顔でわたしを出迎えてくれた。
風雨荒れ狂うドアの外とはまるで別世界のように静かな部屋は、
美味しそうな醤油の匂いに満たされていた。
空腹を思い出した胃がきゅっと反応する。
「ていうか」
全身からぽたぽたと滴を落とすわたしの姿に気づき、目を丸くしながらこちらに向かってくる。
「――大丈夫?ずぶ濡れだけど」
廊下の天井に灯る夕陽色の灯りが、近づいてきた宇佐美くんのきれいな顔を照らした。
最初のコメントを投稿しよう!