波旬の娘

2/2
前へ
/2ページ
次へ
「柄にもなく、話し合いで決着つけようなんてするからだ。馬鹿」 「うるさい」 呑気な声音で息を吐いた錫杖の男に、彼岸は憮然とした態度を見せる。 木立に伏せたままの男を押し退け立ち上がると、紅葉が消えた方角を睨み、舌打ちした。 少女と錫杖の男、二人は見知らぬ同士ではない。 彼女が異形を相手にする際、得物を使用することを、彼は知っている。 だが紅葉に対しては使わなかった彼岸を、静観した。 特に理由はない。 「これからどうする」 錫杖の男が問う。 森には静寂が戻り、月光が下界に触手を伸ばす。 あれほど男が倒した異形どもの死体は消え、陰火も焚き火も跡形がない。 「報酬を頂きに行けるとでも思っているのか」 修羅場も何もなかったかのような木々の間に立ち、彼岸が肩を竦める。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加