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「柄にもなく、話し合いで決着つけようなんてするからだ。馬鹿」
「うるさい」
呑気な声音で息を吐いた錫杖の男に、彼岸は憮然とした態度を見せる。
木立に伏せたままの男を押し退け立ち上がると、紅葉が消えた方角を睨み、舌打ちした。
少女と錫杖の男、二人は見知らぬ同士ではない。
彼女が異形を相手にする際、得物を使用することを、彼は知っている。
だが紅葉に対しては使わなかった彼岸を、静観した。
特に理由はない。
「これからどうする」
錫杖の男が問う。
森には静寂が戻り、月光が下界に触手を伸ばす。
あれほど男が倒した異形どもの死体は消え、陰火も焚き火も跡形がない。
「報酬を頂きに行けるとでも思っているのか」
修羅場も何もなかったかのような木々の間に立ち、彼岸が肩を竦める。
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