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果たして、どうだろうか。
錫杖の男は木々の間に腰を据えたまま、首を傾げた。
もう今までの出来事を忘れてしまったみたいに、早速歩き出す、少女の後ろ姿をしばらく見送る。
彼岸の背中には、曼珠沙華が咲いている。花弁は紅い。
本来、曼珠沙華は白いのだが。
異形を此岸から彼岸へと導く者。即ち、彼岸の渡しと呼ばれ恐れられる。
彼女の名が彼岸な故に曼珠沙華が彫られたのか、彫物が認知され通り名となったのか、知らない。
錫杖の男は、自身が何者であるかさえ、判別できていない。
現状、彼岸と共に行くことに疑問を覚えない。
只、それだけだった。
理由はない。
錫杖の男は漸く立ち上がると、既に見えなくなりつつある、彼岸の後ろ姿をゆっくりと追った。
終幕
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