第1章

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腕時計を見る前に部長の後ろの壁に立てかけられた大きい時計に目をやると、そろそろ4時半になろうとしていた。午後のひと時を満喫していたであろう部長の顔に視線を移すと、次第にはらわた煮えくり返る思いであった。PC画面に集中し、その画面が自分側、つまり壁側に向いていて誰もそれを見ることができないのをいいことに、部長は午後のひとときを満喫しているのだ。いつものことだ。時にニヤけ、時に蛇のように点を見つめるように視線をとがらせる。わかっている。どうせエロサイトを見ている。 そんなことを考えているうちに4時半になった。定時である。私は先に済ませていた帰り支度が施されたカバンを手にとると、自分のノートパソコンの電源を切り、「おつかれさまです」と周囲に声を掛けると、1番先に会社を出た。 夕暮れ時、今まで見たことがないくらいにオレンジ色をした空が広がっている気がした。ビルの隙間からのぞくその神秘的な光景を目に焼き付けると、薄暗い街中を歩いた。まっすぐ家に帰るという選択肢だけを今まで選び生きてきた私にとって、ラーメン店に行き一息つく、ということもない。コンビニに寄り、立ち読みということもない。家に帰る。
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