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チュンッと木に止まった鳥の気を引くように一鳴きすると、静かにしろと厳しい声が投げられた。少しだけ反省して、今度はできるだけ音を立てないように鴉さんの隣へと腰かける。
冬の風に晒された、丸裸の木の枝は思いのほか複雑に絡み合っていて、ボクよりも数倍大きな体を持つ鴉さんの姿がちらほらとしか見えない程度には視界が悪い。
それでも木の下の方にはあまり大きな枝はなく、難なく見下ろすことができた。
態々こんな都合のよい木を探し出して腰を下ろす鴉さんは流石だ。
鴉さんの視線をなぞっていくと、木の下には小さなコンビニ袋を提げた高校生くらいだろうか、若い女の子が二人、並んでゆっくり歩いていた。
その足取りは、腰を下ろす場所を探しているのか大分ゆったりとしている。
「鴉さん、鴉さ~ん。」
「あ?......んだよ。」
まるで、今は話しかけるなとでも言い出しそうなほど不機嫌に染められたテノールヴォイスがするすると耳を通っていくも、にやりと口元を歪め、舌なめずりをする表情はむしろ、機嫌がよさそうだ。
その実、鴉さんのぶっきらぼうな口調はいつも通りのものだった。
「今日の狙いはあの子たちなんですか~?」
この問いかけによって、ようやく鴉さんの紅い瞳がこちらを向いた。どうやらあのコンビニ袋に釘付けだったらしい。
おう、と静かに肯定の声を上げた数秒後にはコンビニ袋へと視線を戻し、肉まんだなと卑しい言葉を漏らす。
全くこの人は。食い意地が張っているというか、欲望に忠実というか。
「......正面から行くのがやりやすいか。」
今もボクのすぐ横で顎に手を当て、思案に暮れる。
その口からぼそぼそと漏れ出す作戦内容がすべて武力行使であるものだという点が、何とも鴉さんらしい。
「......うっし。」
考えが纏まったのか、鴉さんはだらりと下へと垂らしていた足を引き上げ、黒くぴったりとした軍服に包まれた長い腕をばたつかせた。
鴉さんが腕を揺らす度に、発生する風圧が何とも鬱陶しい。少しだけ妬みを含ませた感情だった。
ギラギラとした鋭い目を見ていると、鴉って猛禽類だったっけ、なんて馬鹿げた考えが頭をよぎって少し笑みがこぼれる。
それが聞こえたのか鴉さんはこちらを向いた。
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