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「まぁいいわ。俺もう帰っから、お前も早く帰れよ。」
そう言って鴉さんは、飛び立った。
ボクのことも気を遣うあたり元来面倒見のいい人なのだろう。
早く帰れというのは多分、夜目の利かない鳥に対しての心配ごとだ。夜何も見えないまま空を飛んではいけないと、今はもういない母親に、口酸っぱく言われたものだ。
「......やっぱ、好きですね~。」
あの生き様が。悪戯心を忘れない、あくまで野生であろうとする姿勢が。
ボクに憧憬の念を抱かせる。
「ボクも鴉さんみたいになれたらいいんですけどね~。」
締まらない、ソプラノヴォイスではどうにも無理そうだ。
まぁいいや。どうせ鴉さんは、こちらから話しかければ構ってくれるし、質問をすればちゃんと返してくれる。
先生も、好きだけど。それと同じくらいには鴉さんも好きだ。
先生のようになりたいとも思うし、鴉さんのように生きたいとも思う。
全く反対の性格をしている二人に憧れるのは、何とも無謀なものだと自覚はしている。
もこもことしたパーカーに首を埋める。
冬毛に生え変わったのは、もう二月も前のことだけど、どれだけもこもこになっても先生や鴉さんのように大きくはなれないみたいだ。
「雀だからしょうがないんですけどね~。」
間延びしたボクの声が夕焼け空に消えていく。
近くでカァーとやる気のない声が聞こえた。ボクの独り言を聞いていたのかもしれない。
なんとも、まぁ。優しいカラスだ。
いつかそれが、鴉さんの優しさが、人間に向けばいいのに。
先生と鴉さんとボクとが、三人で人間にポッポ、カァーカァー、チュンチュンと餌を求める姿を想像して、ふふっと笑みがこぼれた。
鳩とカラスと、雀の異様な組み合わせはひどく滑稽のようだけれど。
きっとボクにとって幸せな光景なんだろう。
「さて、ボクも帰ろ~。」
くるくるとボクの上空を旋回する一羽のカラスにほこっりしたのは、多分、ボクを見つめていた人間たちも同じだろう。
賢くて、喧嘩っ早くて。それなのに、どこか面倒見がいい。
ボクから見た黒羽鴉とは、そんな男だ。
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