桜と矢田

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初対面の人と二人きりになってしまった …とりあえずクラブの説明でもしよう。 『活動日は週3日の月、水、金。内容としては、まぁ幼稚園の手伝いが一ヶ月に一回、それで他は募金活動や…』 「へぇ、幼稚園の手伝いがあるんだー。」 『興味あるの?』 「うん、子ども好きだから。」 『そっか。』 「長谷川さんは子ども好き?」 『あんま好きじゃないかな。騒ぐし、手がかかるから。』 「随分正直なんだね。ふふ。 あっ!そうだ、長谷川さんのこと桜ちゃんって呼んでいい?」 『いいよ。』 「桜ちゃんもさ、私のこと好きなあだ名で呼んでね。」 『あだ名…』 「そんなに悩まないでもいいんだよ。雫とかシズルンとか。」 『わかった。じゃあ…矢田。』 「矢田かぁ。えっ、矢田!?」 『うん、矢田。』 「それって、あだ名なの? 苗字で呼ばれたことなんてなかなかないよ。あはは! やっぱ桜ちゃん面白いね!」 …そのとき私の心に占めていたのは、少しの独占欲だったのかもしれない。 皆が同じように呼ぶあだ名なんかで呼びたくなった。なんでもいい、彼女の「特別」が欲しかったのだ。 そうして今でも私は彼女を矢田と呼んでいる。
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