第1章

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「はい、今度こそ仲直りね」 リューマは天使の笑みを湛えて手を差し出した。 私はその手にゆっくり触れると リューマはギュッと私の手を掴んだ。 「風呂沸かしてあるから一緒に入ろう」 リューマが私の手を引っ張るようにして イスから立ち上がらせようとした。 私は、それに同調して腰を上げる。 素直って言われると素直じゃない事をしたくなるのはどうしてだろう。 今まで自分が子供じみた意地を張ってきたんじゃないかって ずっと反抗していた事が、凄く恥ずかしく感じてしまう。 「コート置いてくる」 「じゃあ、オレ先に入ってるよ」 リューマが柔らかく笑ったと思ったのも束の間、 「ご飯食べに行くとか言って呑んで来るミユキの神経が理解できないよ、ホント。 オレは前科があるから自粛したっていうのにさ。 飲んだ勢いでヨシにキスされたらどうすんだよ、まったく」 「………………」 さっきのキスで呑んだのがバレちゃってた。 リューマが 忘年会なのに前回の事を気にして アルコールを呑まないで 我慢したのだと分かって なんとなく私に分が悪くなってしまった。 もう何も口答えは出来そうにない。 ………と思っていたのに 「ヨシは飲んだからって、リューマみたいに浮気してキスしたりしないから」 なんて可愛くない事を口走ってしまった。 リューマは私を一瞥して フッと冷ややかに笑った。 「ミユキが素直だったのは一瞬だけか………」 リューマはそう言葉を言い残してバスルームに入って行った。 そしてすぐに バスルームからヤケクソ的な声を張り上げる。 「ミユキ、風呂に入ってこなかったから、覚えてろよっ!」 「ちゃんと行きますよーだっ!」 リューマにやっぱりいつか愛想尽かされるかもしれない。 私はこんなにひねくれ者だから。 余計な一言を言わずにはいられないくらい可愛くないコだから。 でも、 これが私なんだから………しょうがない。
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