第1章

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「今日、全然、お酒飲まなかったの?」 体を洗ってゆっくり湯船に浸かると 湯気が立ち込める中、リューマと向かい合った。 リューマの濡れた髪からはお湯が滴り落ちていて、両腕は両端に肘を預けて 私をじっと艶っぽい眼差しで見つめている。 「乾杯の時に一杯飲んだだけ。 酒は当分、飲まない。 またワケの分からない事を起こしたら嫌だから。 失ったミユキの信頼を得るのは大変だよ、ほんと」 困ったように笑って、腕を伸ばして私の頬に触れる。 「明日、コレクションの打ち合わせ覚えてる?」 そう。 リューマのコレクションのヘアメイクは私が担当する事になっていた。 リューマにヘアメイクはなるべく私にしてほしいと言われて、 私は指名のお客様の予約を調整していた。 「ヘアスタイルの要望が里奈にはあるみたいだから、着るコレクションの服に合わせて髪をデザインして欲しいって。 髪型も少し今より30代を意識した落ち着いた髪型にしてほしいみたい」 今のリューマは20代前半の遊び心があるカジュアル向けのソフトウルフだから、30代向けの落ち着いた感じならスタイルチェンジした方がいいかも。 「オレ、まだ20代なんだけどな」 リューマが、私の頬を人差し指でなぞりながら言った。 「って言ってももう来年は30代突入じゃん」 「んー、年とるの早いなー。 20代はあっと言う間だった。 仕事ばかりやって、毎日睡眠時間3時間程度で。 でも、芝居にやりがい見出だせて、充実していた20代だったな。」 リューマがしみじみと語るのを見て、私もリューマ一筋で過ごしてきた20代を振り返った。 「私はリューマの専属になれたのが、奇跡だったなぁ………」 リューマが人差し指を顎の辺りに落として猫にするようにくすぐり始めた。 「はじめの頃のミユキ、いつもキョドっていて可愛かったな。 オレがメイクしてもらってる時、至近距離のミユキをじっと見つめてたら、ミユキはすぐに顔を赤らめてさ。 キスしたら、ミユキはどんな反応すんのかなって内心ニヤニヤしてた。」 「………………」 だって、あの憧れの本橋ルイのメイクをやってるんだって自覚すればするほど 頭がのぼせてたんだから。
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