忘年会篇 2 嫉妬未満な胸の内

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外国人同士のコミュニティーの場、そこで色々異国での生活にとって役に立ちそうな情報交換をしてみたり、普通に母国語で気楽に会話を楽しんだり。 ライアンもそういう場に行くことはあるだろ。 ただ、そこがたまたまハッテン場だったっていうだけの話。 ライアンの友人でもあり同僚でもある彼女がナンパをされて騒動になったんだ。 ライアンにしても彼女にしても、別にベッドの相手を探すためにクラブに行っているわけじゃない。 わかってるけど、でも、やっぱり心は多少なりとも乱れるだろ? 好きな男を誰かが誘惑するかもしれないなんて。 それにライアンが答えなくても、ざわつくのは仕方がない。 「……遅いな」 そう思ったけれど、遅くないかもしれない。 ただ、早く顔が見たいなって思っただけ。 時計は十時を指そうとしている。 ただ教えるだけじゃない。 テキストどおりにレッスンを進めたりしない、自由なライアンの授業はその分手間もかかっている。 自分のデスクでそれを準備することもあれば、この前のリボンをたくさん用意していたように、部屋でやることだってある。 だから、こんなふうに遅くなることも多い。 それに明日は休みだから、余計に雑務に追われているんだろ。 俺だって営業だから、夕方に帰ってこられることのほうが稀だけれど。 それでも今日は早く顔が見たいんだ。 嫉妬とか、そこまで明確なものじゃない。 ただ、あの美しい獣にほんの少しでも心を傾ける「誰か」がいることが嫌なだけ。 ハッテン場なんて場所に足を運んで、あの青い瞳を誰かが物欲しそうに覗き込むことがイヤだと思っただけのこと。 「ただいまー」 「!」 そんなことは全く知らない呑気なライアンの声に心がホッと息をする。 「おかえり」 「はぁ、疲れた。ただいま、俺の太陽」 「っん」 バカなことを言っている。 レッスン中は自分のことを「私」と改まって言うライアンの「俺」という一言にさえ、ゾクゾクしてしまう。 「ン、ぁ……ライアンっ」 「今日のレッスン、太陽が色っぽい顔するから、次のレッスン遅刻してしまいたかった」 「ぁ、バカ」 腰を引き寄せられて、ただいまの挨拶にしては濃厚な味のするキスをされて、思わず甘ったるい声が零れる。
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