第1章 君とのキスは幸福そのもの

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岩崎さんの息子はホモなんだと、そんなことが知れ渡ってしまったら 家族中、大変なことになってしまう。 どこの家も、昔からそこに住んでいる人間ばかりで、子ども同士、親同士、ずっと一緒に暮らしてきていた。 まさに家族ぐるみっていうやつだ。 田舎からようやく逃げ出して やっと自分らしく伸び伸びと なんて都会暮らしを想像していたけれど、そこまでの自由は都会でも許されなかった。 ゲイバーでならゲイだと言えても 普通の暮らしの中でそれを告白できる雰囲気はない。 もう「普通の暮らし」と区別している時点で、カミングアウトなんてできるわけがない。 そして俺の隠しごとを知らない親からの「最近はどう?」と始まる無邪気な質問。 「で、そのうち、ノンケになるのが一番楽だって思ったんだ」 自分はこうだと主張するよりも 世間一般、常識 そういうものに自分を従わせてしまったほうが楽だという結論に至った。 「でも、今のほうがよっぽど楽だ」 「……太陽」 二人で並んで見上げていた白い天井。 クルッと体勢をうつ伏せに入れ替えて、肘を立てながら上体を起こし 愛しい恋人と向き合う。 「親には本当に悪いと思う。孫とかさ……まぁ、姉貴がいるから、それはまだマシだけど、それでも申し訳ないって思う」 結婚式当日に恥をかかせてしまった。 自分の息子が花嫁に逃げられた現場に自分達もいたのだから、俺よりもショックを受けたかもしれない。 そして同性愛者だと告白されて戸惑うだろう。 俺がもし普通の息子だったら 結婚式の晴れ姿を見て感動して、これで孫でもできてくれたら、なんてのんびりしていられたのに。 「でも、それでもやっぱりライアンが好きだ」 親を悲しませてしまっても、認めてもらえなくても ライアンとは離れたくない。 「太陽」 ゆっくりと起き上がったライアンが覆い被さり、また体勢が変わる。 さっき並んで見上げた天井が、今度はライアンの肩越しに見える。 カーテンの隙間から差し込む月の光りが夜目になれたせいで青い一筋の光りのようだ。
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