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僕は口を開けなかった。
一滴たりとも唾液をさらすまいと歯を食いしばる。
有栖川はやれやれといったふうにガーゼを持った手を下ろした。
諦めたのか。
そう安心したのは一瞬だった。
「まあ唾液は後々にでも摂れるな。
お前を懐柔するにはこれが必要だな。」
有栖川はそう言って何か小さな瓶状のものを白衣のポケットから取り出した。
それはプッシュ式のプラスチック容器で、中には透明な液体が入っている。
僕にかけるのか、と体を強ばらせたけれど予想に反して有栖川は自分の首元にそれをシュッと軽くかけた。
有栖川はプラスチック容器を近くのキャストの上に置き、僕の方に向き直った。
な、に、なに、こ、れ。
有栖川から香る、濃厚な香りが僕の鼻孔に広がり、それが熱と変わり脊髄を通って腰につく。
甘い甘い、溶かされると錯覚するほど。
何かがドロリと僕の中を蠢いた気がした。
何もされていないのに動悸が激しくなり呼吸もハーハーと乱れてくる。
体温が息をする度に上がっている気がする。
何より。
僕自身が勃ち上がりかけていた。
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